“ネット社会のデマとフェイクニュースを消し去ることは不可能です。こうした問題は情報社会において長期にわたり残り続けるでしょう。ですが、人類はデマやフェイクニュースと共存する方法を学ぶと信じています。情報拡散とデマとのあいだに、ある種のバランスを打ち立てることができるのだ、と。 中国のSF作家の劉慈欣氏は、報告書の中でそう述べている。 劉氏は、世界での発行部数2,900万部というベストセラーSF小説『三体』で知られ、アジアの作家として初めて米国のSF賞、ヒューゴー賞も受賞している。 報告書「デジタル空間における信頼創出に向けて」は、現時点(8/9)で広報レポート(全211ページ)が経済産業省のサイトで公開されている。 報告書では、劉氏ら世界的に知られる有識者へのインタビューで、新型コロナ禍における誤情報・偽情報の氾濫「インフォデミック」について、その問題点と対策の提言について尋ねている。 劉氏はインタビューで、誤情報・偽情報の氾濫の背景と指摘される社会の分断についても、こう言い切っている。 文明の誕生以来、人類社会の意見が統一されたことはありません。異なる国、民族、政治団体、宗教、文化のあいだは、分断と衝突で充ちています。ITはこれらの問題を拡大したにすぎません。分断と衝突は人類社会の正常な状態なのです。これを短期間で消滅させることなど不可能です。 劉氏は、「危険な影響をもつデマとフェイクニュース」については、法律と政府による抑止が必要、との立場だ。さらに教育の取り組み、そして「大衆の識別能力の高まり」に期待を寄せ、こう述べる。 私たちはITによってつくられた、まったく新しい世界に直面しています。この世界の社会と文化の形態は情報化時代前とはまったく異なるものです。この変化は止められるものではありません。私たちは適応していくしかないのです。 プラットフォームのアルゴリズムにより、人々の興味関心に沿った情報配信が行われ、それらは社会グループの分断と細分化につながる。このような「フィルターバブル現象」は、「インフォデミック」を広げる背景といわれる。 だが劉氏は、それが文化の多様性にもつながるといい、「情報ネットワークは人類の分化を促進すると同時に、人類の一体化をも促進するという側面があることにも注意すべきです」と述べる。 重大な事件が起きた際、現代ではあらゆる人々がかつては考えられなかったほどの速度で注目するようになります。(中略)分化と一体化は情報社会において同時に存在する、相矛盾した潮流です。こうした潮流によって、現在の私たちには想像することすら難しい世界が築かれていくのです。”
Source: nasaniel